家具は、工芸の「アンサンブル」

家具は、工芸の「アンサンブル」

Interview

細尾直久(HOSOO architecture) 後篇

素材について

今回発表されたファニチャーには、ラウンジ用とダイニング用があります。ラウンジ用は、リビングでくつろぐためのソファとローテーブルのセットです。ダイニング用は、食事をするダイニングテーブルと椅子のセットになっています。

使っている素材は、西陣織、石英石、真鍮です。今回使用しているテキスタイルは、「Abstract」という名称のコレクションで、抽象絵画からインスピレーションを受けて生まれたものです。石の表情がものすごく特徴的で、それ自体として美しいので、その美しさを引き立て合うテキスタイルとして合わせました。テキスタイルが石の表情を引き出し、石がテキスタイルの表情を引き出してくれる。そういった相互関係が成り立つよう素材を選んでいます。 

使用している石英石は、ラグジュアリーかつアーティスティックな石を扱うことで知られる、イタリアのアントリーニという石材メーカーのものです。テーブルの天板になっている石英石はすべて一点ものであるため、ファニチャーの現物を見てご購入いただく形をとっています。椅子の西陣織は、テーブルの石に合わせて、HOSOOのテキスタイルからお好きなものを選んでいただくことができます。最高の石と最高のテキスタイルを組み合わせた家具です。 

素材として石を使う場合、均一で、柄が控えめなものは家具にも使いやすいです。部材として、どこに組み入れても存在感を消すことができるからです。でも僕が今回使いたいと思った石は、もう少し個性がある石でした。物として素晴らしい個性と魅力があるけれども、合せた方を間違えると、全体のバランスが崩れてしまう。同じような個性や強さがある素材と組み合わせることで、ギリギリのバランスの美が成立する。そういった石を選んでいます。 

テーブルや椅子のフレームは真鍮でできています。真鍮は溶接がしにくいなど、加工が難しい金属で、金属としては鉄やステンレスといった材料のほうが真鍮よりも扱いやすい。でも真鍮には特有の、しっとりとしたきらめきのある独特の味わいがあるため、使用しています。そんな真鍮をいかに構造に落とし込んで、美的にも物理的にも成立するように構成するか。鍛冶屋さんと協業し、二人三脚でトライアンドエラーを繰り返した末、形が収斂していきました。

「アンサンブル」としての家具

今回の家具もHOSOO FLAGSHIP STOREと同様に、異なる素材同士を組み合わせて、それぞれの素材が持っている潜在的な個性を引き出せるように設計しています。西陣織には西陣織の、石英石に石英石の、真鍮には真鍮の、それぞれの個性があります。それをそぐのではなくて、互いに活かせるよう、掛け合わせる。それによって家具という一つの「アンサンブル」をつくることができないか。それを設計のプロセスで一番大事にしました。

テキスタイルのふわっとした生地感は、固くて冷たい真鍮と組み合わせることで、よりいっそう際立ちます。物の潜在的なクオリティを引き出すために、技術や素材同士のバランスをデザインしているんです。僕はデザインを関係性で考えています。一つの素材それ自体というより、物と物との関係性の中で発生する効果や現象を大事にしています。 

その発想は西陣織の、相異なる糸が束ねられて織りなされることで一つの有機的なテキスタイルがつくられていくアプローチと同じだと、僕は考えています。建築家として、織物や石、真鍮に限らず、ふだんから素材の潜在的な魅力を意識しながら観察をしています。世界には本当にいろいろな技術があり、そのそれぞれに、代えがたい個性や特質があります。「あれとこれを組み合わせたらこういうアンサンブルができるな」と、ふだんからイメージを膨らませています。

家具の形と建築

家具の形というのは、テーブルや椅子など家具の種類によって「だいたい決まっている」と思われがちです。でも僕は今回、家具を家具としてカテゴライズして見たくありませんでした。家具は家具である以前に一つの美的なオブジェクトです。だから家具という形式を一度カッコに入れて考えたかったのです。

そこに荷重が乗った時にきちんともつ構造をゼロから考えたいと思い、椅子の形のスタディを始めました。人が座るときに重心がどこにあって、どう力がかかるか。リサーチしていくうちに、脚が4本である必然性はないことを発見しました。構造としては、3本脚で安定がとれるのです。そこで今回のような形態にたどり着きました。

テーブルや椅子の脚の構造を考える際には、建築における柱の入れ方がヒントになりました。建築的なフォルムの美しさを家具にも応用できるというのは、一つの発見でしたね。今回のデザインを通じて僕自身、家具もまた建築であるという実感を持つことができました。建築として美しいものは、家具としても美しい。建築のディテールをつくるときの技術を家具に落とし込み、3本脚の美しいコンポジションを完成させました。

テキスタイルこそ建築である

建築の中でテキスタイルは、通常は「サブ」として扱われます。あくまで柱や床といった構造が「メイン」で、テキスタイルを使うような内装やデコレーションはサブといいますか。メインは構造で、装飾というのはおまけとして扱われがちなんですね。

でも僕は、むしろそれは逆なのではないかと考えています。19世紀ドイツの建築家で、ゴットフリート・ゼンパーという人がいます。彼は建築で一番大事なのは、構造ではなくて織物だと書いているんですね。人類において一番最初に建築的な行ないが始まったのは、自分の住まいの絨毯や敷物であって、それらを支えるために構造が後からできたのだと。

ゼンパーはそのような考え方をしていて、僕はそれにすごく共感するんですね。人の情操を豊かにして、住まいの環境のベースになるのは、構造ではなくて、人が一番身近に接している「被服」の部分なのではないでしょうか。その意味でテキスタイルというのは、僕にとって、何よりも建築の代名詞です。僕が考える「工芸建築」を、「織物としての建築」と言い換えてもよいかもしれません。

今回のファニチャーを僕は、「工芸建築」の延長として考えています。身につけるもの、接するものによって、人間の状態が変化する。良い建築は、その空間にいると気持ちが高まったり、エネルギーが出る感じがしたり、琴線に触れて情操が豊かになったりする。その側面から見ると建築の原型は、人にとって身近な家具にあります。だからこそジュエリーのような、人の心を潤すことができる家具をつくろうという気持ちで、デザインをしています。

 

細尾直久(ほそお・なおひさ)

1981年ミラノに生まれ、京都で育つ。近畿大学国際人文科学研究所で柄谷行人氏、岡﨑乾二郎氏に師事しながら、理工学部建築学科卒業。ミラノ工科大学留学を経て、David Chipperfield Architectsに勤務。イタリアから日本へ帰国後、2015年京都にてHOSOO architectureを設立。一級建築士。noteで「工芸建築論」を執筆中。

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